涅槃図(定林寺本)

07涅槃図(定林寺本)

2曲1隻屏風 ※
紙本着色
162.0×156.0
19世紀後期
和田町・定林寺蔵

左下に「狩野聞水斎信由謹而書之」の款記があり、「素扑」という印が捺されているため、幕末の頃に備中松山藩の絵師(11石2人扶持)として活躍した狩野素扑による作品であることが分かります。狩野素扑(1838〜1910)は祥雲寺開山堂天井絵(高梁市指定文化財)や「備中松山城の図」等の作例があります。

現在の定林寺本の画面は欠けている部分が多く、紙本の紙継ぎ部分で絵が途切れるという状態です。しかし、絵がある部分の状態をみると、湿気による染みや汚れの付着もなく、顔料の変色も見られないため、欠損が多い割には画面の状態が良好であるといえます。このような状態から、定林寺本は相当に破損していた作品を手本として、祖本の残っていた部分のみを写した、模写や絵手本のような目的の作品である可能性が考えられます。

寿覚院本と比較すると、会衆の配置から細かい着衣の柄まで完全に一致しており、同じ祖本を転写したものと考えられます。釈迦の顔の表現は鼻梁線や眼窩線の描き方が伝統的な仏画とは異なり、まるで生身の人間の様な表現となっている点が特徴的で、このような表現は祖本から忠実に受け継いだものと考えられ、祖本も狩野派の絵師による作品と考えられます。よどみのない筆致で、破綻なく形を描いており、狩野素扑の技量の高さがうかがえます。