はじめに

吉備国際大学は平成25 年度から文部科学省「地(知)の拠点整備事業」(COC)に「だれもが役割のある活きいきした地域の創造」というテーマで採択されました。本事業は、岡山県高梁市、兵庫県南あわじ市にキャンパスを有する本学が、若年人口の減少や地域経済の 低迷、社会的な弱者の社会参加の困難性などの共通する課題にたいして地域と連携して取り組んでいくものです。

吉備国際大学が多くの学部を有する岡山県高梁市には公立の小・中・高等学校が計31 校、また兵庫県南あわじ市には計25 校あります。これら各学校が所有する美術作品の殆ど全ては、空調設備が完備されていない環境のもとに保管・設置されています。そのまま放置すれ ば当然ながら作品は傷んでいく一方で、いずれはボロボロになり破棄されてしまう運命にあるのが現状です。
平成25 年度に高梁市内の小学校が所蔵する油彩画作品を吉備国際大学の学生と共に調査・修復したのを皮切りに、平成28 年度までに高梁市の作品4 点、南あわじ市の作品4 点、計8 点の作品の修復を完了してきました。

4年に渡り取り組んできた本事業の最終年度として、平成29年度には南あわじ市の小中学校に的を絞り、高梁市の文化財総合研究センターに作品を運ぶことなく現地に赴いてできるかぎりの作品修復を行う試みをいたしました。その結果、計5年間に渡る本事業の作品保存・修復は高梁市の4作品、南あわじ市の13作品、計17作品の修復を完了いたしました。それらの「修復事例」を冊子としてまとめたものを現在まで3回にわたり発行することができました。計5年間のこの取り組みは、公立の小・中・高等学校の作品の保存修復を行ってきましたが、世間一般では作品の価値はその作品の評価額という金銭的価値に重きを置いております。しかし各学校に収蔵されている作品は、その学校の卒業生の作品であったり、あるいはPTAの方々が学校に寄贈した作品でありました。それぞれの学校で学び育った児童生徒にとっては、かけがえのない大きな価値のある作品ばかりでした。このような作品を保存・修復していくことの意義が「地(知)の拠点整備事業」(COC)の取組によって、少しでも皆様にお伝えできれば幸いです。