「8つの研究会」

連携組織名:南あわじ市大学連携推進協議会
目   的:地域社会の特性に起因する課題の解決や地域振興を図る。
設置研究会:地域特産農作物栽培・育種研究会
      植物クリニック研究会
      機能性食品開発研究会
      農業・農村6次産業化研究会
      農作物・食品輸出拡大研究会
      森林資源保全研究会
      あわじ人口減少問題研究会
      地域ブランド食品創作研究会
 

取り組み内容・成果等:

①地域特産農作物栽培・育種研究会
 現代の農業は、多肥、多農薬の投入と、これに適応した品種の開発によって大きな発展をみせてきた。しかし、多肥・多農薬の長期にわたる連用は、農地の疲弊を促し、近い将来、農業そのものが実施できなくなるのではないかと指摘されている。このような状況にあって、農業者が実践すべきことは、疲弊しつつある農地を持続可能な農地に変換すること、すなわち、「土づくり」に取り組むことであろう。従来、「土づくり」には堆肥の施用が有効であると考えられてきたが、最近の国際農業機関の国際イネ研究所(IRRI)の研究によると、堆肥だけでは土地の疲弊を防ぐことはできないことが明らかにされている。本研究会は、土中の微生物の多様化が、疲弊した土をよみがえらせるもっとも有効な手段であるという栽培学の原点に立って研究代表者が開発したバイオスティミュラントの一種である「ルオール」が、南あわじ市の農地を回復・改善するための有効なツールになることを実証・提言することを目的としている。これによって、南あわじ市の農業が、低肥料化と低農薬化による経費・労力の削減、低農薬化による残留農薬問題の解決(日本産作物は残留農薬が多く、輸出の障壁となっている)が可能になることを期待している。また、同時に、南あわじ市農業者および南あわじ市役所職員とともに他府県の優れた農業現場を視察し、これによって南あわじ市農業の新たな方向を探ることも目的とする。

 

②植物クリニック研究会
 南あわじ地域の特産農作物であるタマネギ、レタス、ハクサイ、イネなどの病害の実態調査を行い、その病害の原因となる病原菌を採集・分離し、PCRやDNAシーケンシングをはじめとする遺伝子工学的手法を用いて病原菌種の同定を行う。得られた情報を基に、地域特産物の病害に特化した迅速かつ正確な病害診断法の開発を目指し、本学部が推進する地域連携の要の一つである植物クリニックセンターの円滑な運営に寄与する。
 一般的に作物病害の診断と防除には、早期の発見と病原体の正確な特定が重要であるが、多くの場合は病気がある程度進行した後、つまり病害が可視化できた後に可能になる。それ故、病原体感染の有無に関わらず、定期的な農薬散布によりあらかじめ病害の予防を行うのが慣例である。しかし、過度の農薬散布は、農業従事者の健康被害、農薬購入にかかる費用の増加、残留農薬による農産物ブランドの信頼・安全性の崩壊などが懸念される。また、土壌や水系などの環境汚染によって、持続的な作物栽培に悪影響を与える可能性がある。
 近年、遺伝子診断は医学をはじめ様々な分野において利用されており、作物の病害診断にも幅広く応用されている。遺伝子診断のメリットとして、DNAやRNAの塩基配列を基にして非常に正確で迅速な病原体の特定を行えることがあげられる。また、検査に必要な検体量はごく少量で、病害発生後のみならず病害発生前の環境中に微量に存在する病原体を検出することも可能である。つまり定期的なサンプリング検査により病害の発生予察が可能となり、農薬使用量や散布回数の軽減が見込め、地域農家の負担低減に貢献することが期待される。
 そこで本研究では、地域の特産物であるタマネギ・レタスなどの効果的な病害防除への貢献を目指し、分子マーカーを用いた病原体診断法の開発を行う。また、得られたデータを活用し、本学部植物クリニックセンターを核とした病害診断業務を開始して、地域農家等からの診断依頼を受付けるとともに、病害発生リスクの情報を発信していく。

 

③機能性食品開発研究会
 野生動物による農業被害は全国各地で問題となっている。有害鳥獣駆除活動の活発化やジビエの流行による猟師人口増加の影響などがあり、平成22年から被害額は年々減少しているが、未だその被害額は164億円(平成29年度)にも上る。農業が主産業である南あわじ市においても、イノシシやニホンジカによる農作物被害は深刻であり、防護柵や電気柵の設置や箱罠などによる捕獲対策が取られ淡路島の自然獣の捕獲頭数は平成22年から増加している。しかし、捕獲した自然獣のほとんどは産業廃棄物または山間部に廃棄されている。自然獣を捕獲した場合、行政から補助金を支給されるが、産業廃棄物処理費用を換算すると一頭あたりの猟師が得る利益は数百円を下回り、運搬や檻の購入費用など諸々を換算すると赤字となる。さらに、猟師の高齢化も重なり捕獲個体はほとんどが山間部に遺棄され、ジビエの利用率がイノシシ5%とシカ11%といずれも非常に低い。山間部への遺棄は山里に害獣を誘引することとつながり、農作物被害対策の根本的な解決方法とは言い難い。農作物被害を減らすには持続的な有害鳥獣の捕獲が必要不可欠であり、廃棄されていた自然獣をジビエとして利用を拡大することで、捕獲を促進して、南あわじの農業を害獣から守ることを本研究の目的とした。狩猟免許には銃猟免許と網猟免許と罠猟免許があり、農作物被害の大部分を占めるイノシシとシカを捕獲することが可能でかつ比較的安価で安全な罠猟を選択し、農学部に在学する学生が罠猟免許を取得し、学生猟友会「チーム追山狩部」を立ち上げ、免許取得者を中心に狩猟期間内の猟活動とジビエカレーなどの商品開発、企業との渉外を行なっている。

 

④農業・農村6次産業化研究会
 本研究では、平成27年(2015年)春に南あわじ市のイングランドの丘の横にオープンした農畜水産物直売所「美菜恋来屋」を魅力があり、賑わいのある直売所とするための方策について、学生が主体となり農産物直売所の利用者へのアンケート調査や農畜水産物直売所の先進事例の調査を実施し、その結果を調査報告書やシンポジウムの開催により関係者に報告し、意見交換することで地域の活性化に貢献することを目指してきた。
 現在、2017年9月に農畜水産物直売所「美菜恋来屋」の利用者を対象に実施したアンケート調査の集計結果を取りまとめ、「美菜恋来屋」をより魅力があり、賑わいのある直売所とするための方策について考察した結果を取りまとめている。

 

⑤農作物・食品輸出拡大研究会
 本研究会は、南あわじ地域が、産地として「海外市場」をどのように利用するかというテーマ(海外市場の使い方)について、国内市場の動向を見据えながら、地域の各プレイヤー(生産者・事業者・行政等)と共に検討することを目的としている。
 現在,農林水産物輸出ブームが進行する中で,日本各地の自治体が,その農業振興施策の一つとして,輸出戦略を位置づけるようになっている。しかしながら,自治体担当者にとって,海外現地市場に関する情報は断片的かつ限定的にしか入手することができず,海外現地市場の動向を大学の研究者が専門的見地から提供することは,地方農業の進展に寄与するものと思われる。

 

⑥森林資源保全研究会
 リクリエーション利用されている里山において、活動に伴う里山の管理内容および、参加者の特性を分析した。その結果、活動に伴い年間数十本~300本程度の成竹が伐採されており、竹林の密度管理に寄与していた。また、過去2年間の利用者のうち、リピーターは3割であった。参加者の来訪範囲は、主に南あわじ市内(10~15㎞圏内)であったが、一部、洲本・淡路市、島外からの参加者もみられた。今後は、参加者が活動に期待する内容、および里山の保全意識の分析を行う予定である。

 

⑦あわじ人口減少問題研究会
 人口減少や高齢化にともない、将来への不安をかかえるコミュニティーが増えている。とくに、望ましい食生活をどのように実現するか、地域の助け合い機能をどのように維持していくか、多くの人が自立して日常生活をおくることのできる住環境をどのように整備していくかなどは、行政と住民組織が一体となって考えていくべき課題である。このような課題へ取り組むための基礎データを収集することを目的に、「住環境と食生活・健康」調査(科研:H27~H29)を実施した結果、以下の項目について報告書を作成し、南あわじ市に提出した。また併せて、報告会を開催した。

1.買い物環境・買い物行動
  ・主観的買い物環境 ・近隣の商店への移動時間 ・買い物頻度
2.エネルギーおよび栄養素摂取量
  ・主要栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質) ・ミネラル ・ビタミン類
  ・そのほか
3.社会関係資本(社会的ネットワークや信頼関係)
  ・市民活動への参加の程度(構造的社会関係資本)
  ・信頼、助け合い、地域への愛着の程度(認知的社会関係資本)
  ・サポートの授受状況の程度(互酬性社会関係資本)
4.主観的健康観(自分の健康状態をどのように評価しているか)
5.手段的日常生活動作
  ・買い物、洗濯、掃除等の家事全般、金銭管理、服薬管理、交通機関の利用、電話の応対などを自分
   でできるかどうか
6.生活支援の受け入れ可能性
  ・さまざまな生活支援が必要になった際に、どのような主体であれば受け入れ可能か漁業経営および
   後継者に関するアンケート調査票を作成し、2漁協(福良、南淡)の正組合員を対象に調査を実施
   した。また、前期に行った農業経営および後継者に関するアンケート調査の追加として1集落(北
   阿万)を対象に実施した。

収集データについては、今後、詳細な分析を行う予定である。

 

⑧地域ブランド食品創作研究会
 本研究会では、在学生と教員、地元栽培者が協働で淡路島固有の特産柑橘であるナルトオレンジ栽培の復活と共に加工食品の開発に取り組んでおり、これを通じた地域産業の活性化と学生の課題解決能力、研究力の向上に寄与することを目的としている。ナルトオレンジは、他の柑橘には無い、独特の好ましい精油(テルペン)の香りを有し、メタボリックシンドローム予防効果があるキサントフィルのベータークリプトキサンチンやフラボノイドのヘスペリジンを豊富に含んでいる。この香り成分と健康維持に好ましい成分を有意に利用する最適法は、ナルトオレンジの果汁を配合したジェラートの創作あると結論付け、卒業研究としてジェラートの開発に取り組み、兵庫県内での各種イベントにおいて試作品の試食とアンケート調査を実施し、改良を重ね南あわじ市内において市販を行っている。

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